ひょん先生は背中で語りたい

精神科医。いじめられ体質から成長中。月曜日更新予定。

【愛着障害】親に診察同伴してもらった結果

こんにちは。愛着障害、いじめられ体質克服中の精神科医ひょんです。

 

愛着障害の親との関係で理解が得られないときは、診察に同席してもらうのも手だというお話を以前しました(【愛着障害、毒親】親とうまくいかない3つの理由 - ひょん先生は背中で語りたい)。

専門的な知識があっても、実際に自分の親に説明して理解を得るとなると難しいのです。

専門的な知識を持っている第三者が介入したほうがうまくいきやすいです。

実際に私の母に診察に同席してもらったので、そのことについて書こうと思います。

 

愛着障害についての知識はいろんなサイトや本から得られると思うのですが、みんながどう向かい合っているかという情報を得られる場というのは限られています。

私の体験と、精神科医の視点から思うことをみなさんと共有したいと思います。

 

 

1.親の理解が得られやすい時期

 

愛着障害の患者さんを何人も診てきました。

親との橋渡しもしました。

以下の3つの時期が親の理解が得やすく、変化するための親の頑張りがみられます。

 

1.親の頑張り度合いが大きいのは未成年の時
 ⇔大人になると「もう大人だし、今更…。」という扱いになりやすい

2.不安定な愛着により自己破壊的な行動が出現し始めて、うろたえてる時
 ⇔不調や問題行動が慢性的にが持続すると、諦めや偏見が強まってしまう

3.精神科の通院を始めた時
 ⇔時間がたちすぎると、「今更」の壁を突破しにくくなる
 

1~3の条件をすべて満たしている場合、変化は見られやすいです。

親自身も愛着障害がある場合がほとんどなので、一朝一夕に解決されませんが、変わろう!という姿勢をみせてくれます。

 

私の場合、一番最初の不調や問題行動というのは、中学高校に頻回にリストカットを繰り返したことです。

しかし、無理やり頑張ってやめたことで、問題がなくなったように扱われてしまい、2のタイミングを逃しています。

大学時代に精神科受診につながりました。

受診当初は両親とも付き添いに来てくれていましたが、両親に対する不信感から同席してほしくない気持ちが強く、3のタイミングも逃しています。

同時に、成人していたものの、大学生の時の話なので、1のタイミングに間に合えたかもしれないけれど、それも逃しています。

 

1~3すべてを満たさない、難易度高めの時期に、母に診察同伴してもらうことになったのです。

 

2.診察に同席してもらうことになった経緯
 ~愛着障害克服の過程で怒りが噴出しやすくなる

 

愛着障害の克服の過程で、子ども時代の怒りが噴出しやすくなります。

子ども時代の出来事がどのように今の自分に影響を与えているかということの理解が深まり、抑圧してきた感情のブレーキも外せるようになるからです。

トラウマ体験、傷つき体験の元になっている親へ怒りをぶつけることは、愛着障害の治療がうまくいってるから起きることなのです。

 

ここで親が怒りを受け止められると、子どもはだいぶ回復できるのです。

しかし、親自身も傷つきやすさがあるため、正面衝突になるか、回避的になるかいずれかの反応になりやすいです。

 

私の場合も、過去の傷について言及することが増えました。

父は返事をくれなくなりました。

母は、連絡をとってくれるけど、「子供は記憶違いが多い」「今まで仲良くやれていたのに、ひょんは変わった」「私のことが嫌いだからそんなこと言うのね…」といった出来事を否定したり、私の反応を非難するようになりました。

 

「一人で頑張っても理解が得られない」
「このまま、理解が得られないまま、両親は死んでしまうのか…」

 

という不安を抱え始めました。

 

ある日の母とのやりとりで、

「だいたい、私のことなんでどうでもいいやん!」
「診察についてきて、私のこと知ろうともせんやん!」

と怒っていると(たぶんフラッシュバック)、

「昔、診察についていこうとしたらついてこないでっていうからついてないだけよ」
「診察についていいよ」

 

という、対処的な、上から目線ではあるけど、診察に付く気はある、という発言がありました。

「一人で頑張らなくて、主治医を巻き込んだ方がうまくいくような気がする」
「診察ついてかわらないかもしれないけど、やるだけやってみて損はないんじゃないかな…?」

と思い、診察についてきてもらうことになりました。

診察日を知ろうともしないためそれにまた怒るということも起きましたが、無事に診察を一緒に受けることになります。

 

 

3.診察当日

 

事前に主治医に親を連れていくことは連絡していました。

ここの連携は本当に大切です。

精神科医の立場から言うと、ある程度の時間が必要なのと、説明の段取りを考えておかなくてはいけません。

せっかくの思いをして親を診察室に連れて行って不毛に終わるのはもったいないので、主治医との連携ははかってください!

 

診察の待合で母と待ち合わせをしましたが、

「今日は先生から呼ばれたのかな…?」
「急に来て、変な人と思われないかな…?」

と不安げな様子。

いきさつを忘れられてるのも、どうでもいいと思ってるから忘れてるのかな?と思って怒りそうになるけど、母の不安が強そうだし我慢しました。

 

「体調どう?」

「うーん。ぼちぼちです。」

 

母がいるのでうまく答えられません。前日も母が診察室にいる、というのが不安で仕方なく、別々にお話してほしいっていうか迷ったくらいです。

理解されずに、批判や批難をされることに対する恐怖心からくる不安でしす。

 

「だいぶ良くなってきていると思うんだけど」
「家族仲が良くなるともっと良いね」

「家族仲がだいぶ悪いです」
「休職してから過去のことを責めるようになったんです」

 

母が入ってきて、そこから母への説明をしてくれました。

 

「大変ねえ」
「仕事をしているときはいろんなことが起きるから目立たないけど、休職をしているとフラッシュバックが目立ちやすいかもね」
「文字文化って、頭で考えて、本来のその人らしさを無視しちゃうから、こんがらがっちゃう」
「一生懸命頑張る人に多い傾向」
「この家族もみんな頑張る人だったんじゃないかな」
「文字文化で頑張りすぎるところから抜け出そうとするから、ぶつかってるのが今なんじゃないかな」
「でも抜け出したほうがきっと楽」
「言葉でやりとりすると余計にこんがらがるから、神田橋先生の心身養生のコツ、おすすめ」

 

といって、心身養生のコツの愛着障害のページのコピーを先生が母に渡す。

 

「え…。愛着障害なのかな?」

愛着障害の言葉を知っているの?」

「うん。」

「なんで?」

「…。」

 

答えてくれなかったけど、母なりに調べたり考えたりしてくれてたのかな。

愛着障害の言葉をそもそもしらないで受診する患者さんもいるし、母の世代で自然に言葉を知ってるとは考えにくい。

 

「そういうのがいいと思うよ」
「お母さんのお母さんから大変だったんじゃないかな?戦争を経験している世代ってきっと大変だったんだと思う」
「誰が悪いわけでもないと思うよ」

「私が傷つけることをしたからこんな風になっているんです」

「悪意があるわけじゃないし、お母さんのせいじゃなくて、環境のせいとかだと思う」

「興奮している時に電話を切ろうって言われた時に、『あなたたちのせいでこんなに苦しいのに』って言っちゃうんです」
「電話で喧嘩になったときに『私のことが嫌いなんでしょ?』って言われて、何も言えなくなります」

「それはこの人(ひょん)がフラッシュバックしているだけだし、『私のことが嫌い』はお母さんのフラッシュバック」
「今、きついんだねってなだめることが大切」
「誰が悪いかとか昔のことをさぐると余計悪くなっちゃうから今を大切にするのがいいよ」

「まっすぐな人だから、いろんな人とぶつかっちゃう」
「繊細なところをなくせっていっても無理だから、安心できるところができるといいね」
「それがお母さんなんじゃないかな」

 

というやり取りがありました。

私の主治医のやり方の素晴らしいポイントは、とにかく親を責めていないこと。

親の愚痴もふわっと聞いてあげて、かつ本人を責めることをしていない。

話のふりかたも、自然。

これからのストーリーに繋げられている。

 

子どもの親も愛着障害があることがほとんどで、責められることに弱く、防衛的に言い返そうとしたり、治療同盟が結べなくなる、失敗を恐れて本人との関わりを避けるようになる、といったことが起きます。

精神科医の立場から言うと、親を責めずに、愛着障害の病態について伝える、協力をお願いするのは難しいんです…。

復職して、患者さんの家族に説明する必要があるときにこのやり方を真似しよう。

このブログを読んでる精神科医の先生がいたら、真似していいですよ(`・ω・´)

 

診察受ける側の人たちは、こんなやりとりがあったんだな、くらいに読んでください。

担当してくれてる先生で説明の仕方も変わるので、参考程度に。

 

3.診察が終わって

 

母なりに悩んでたんだなっていうのが分かってちょっと落ち着き気味です。

診察に同伴してもらう意味合いって、親に説明してもらうだけじゃなくて、子ども側が親の気持ちや態度を知ることができる点にもあると思います。

実際に自分が説明してもらって気が付きました。

 

親の理解が得られやすい時期の1~3のタイミングを逃していて、望みが薄いと思っていたけど、少しいい方向に進みそうです。

4つ目に、親側の準備ができているかどうか、ということも追加できます。

ただ、子ども側から見て、これはすごくわかりにくいんですよね。

自分が親に話を切り出せて、親がそれを受け止められれば、準備としてはまずまずできているのかなと思います。

1~3のタイミングが揃っていれば、より解決へ進めやすくなりますが、揃ってなくても、うまくいきそうなこともあるようです。

 

ただ、実際にトライしてみて、うまくいかない場合もあり得ます。

その場合も、期待しすぎずに次のタイミングを待つ姿勢が必要です。

 

まとめ

・親の理解、協力が得られやすいタイミングは3つある
・3つのタイミングを逃してしまっても、打開したい気持ちがあって、部分的でも親に協力してもらえるなら可能性がある
・専門的な知識があっても親に愛着障害の説明をして理解を得ることは難しい
・主治医から説明してもらいたいときは事前に主治医に伝える
・ダメでも期待しすぎずに次のタイミングを待つ姿勢が大切
 
おすすめの一冊
 
愛着障害克服のために、まずはきちんとした知識を得ておくことが大切です。
何度も岡田先生の本はご紹介していますが、是非読んでください。