ひょん先生は背中で語りたい

精神科医。いじめられ体質から成長中。月曜日更新予定。

STAIR/NSTについて

こんにちは。

やっと、ずっと書きたいといっていたSTAIR/NSTについて書きますよ!PTSDも含めて全体の治療選択の図もわかるような記事も書こうかな。

一般向けにSTAIR/NSTについて書いて、セルフで実践しているので、どんな風にセルフでしているかも書こうと思います。ただ、セルフでするプログラムではないので、興味ある人で、通院先で実施できないときに、参考程度にさらっと読んでもらえると嬉しいです。

 

STAIR/NST とは

 

複雑性PTSDに効果があるといわれている治療法になります。児童虐待のサバイバー向けに開発された経緯があります。複雑性PTSDは、主に子供時代に複数回のトラウマ体験をもった場合に生じるPTSD症状+感情調整や対人関係の機能障害になります。(もう少し知りたい方はこちらをどうぞ:複雑性PTSDについて - ひょん先生のブログ

従来のPTSDの治療については、フラッシュバックや回避、驚愕反応といったPTSD症状を治療対象としていましたが、STIAR/NSTでは感情調整や対人関係の問題にも対応できるように治療プログラムが構成されています。

 

治療構成

 

治療は2部構成となっており、STAIR:感情と対人関係のスキル、NST:ナラティブ・ストーリー・テリングに分かれています。

 

STIAR

STAIRの部分では自分の感情に気付き、その傾向を知り、対人関係のスキルを身に着けていく部分になります。複雑性PTSDでは、トラウマ体験が慢性化している環境で生き延びるために、偏った捉え方をしてしまっていたり、健康的に育った人であれば自然と身に着けてるような気持ちの落ち着かせ方や、自分の気持ちの伝え方、というスキルを持ち合わせていないことが多く、それにより、感情調整や対人関係の問題に対する対処が難しくなっていると考えられます。その、感情調整や対人関係スキル向上を目的とした治療パーツです。それ自体のスキルが日常生活の困難を減らすのですが、後半のNST部分ではトラウマ体験を話すため、そのストレスに耐えられるだけの基礎体力をつけることも目的としてあります。

 

NST

NSTの部分では、従来のエクスポージャーと同じように、トラウマ体験を語るのですが、エクスポージャー(暴露療法、恐怖になれるためにトラウマ体験を話す治療法)との違いは、物語としての整理をしていくことです。従来のPTSD治療では恐怖の体験を扱うことが多かったですが、恥や喪失といった感情にも対応しています。トラウマ体験は、今は状況が異なるにも関わらず、現在も強い感情を持って、思い出しては圧倒されているために、PTSD症状を引き起こしているのです。NSTでは、強い感情に対して慣れるというだけでなく、記憶を整理して、人生史の一部として捉え、今はトラウマ体験が起きていたときとは違うのだと認識し、STAIRの部分で扱ったような、思い込みの由来を知り、その思い込みを手放す作業を行います。

また、新しい対人スキルを身に着けるためにロールプレイも本来行うのですが、一人ではできないので、エンプティチェアと呼ばれる、椅子の向こうにその人が座っていると想像してその人と私のやり取りをする、といった技法があるので、それを使おうかな、とぼんやり思っています。

 

私自身への導入法

 

STIAR

STAIRの部分の、アサーション(相手も自分も大切にしながら自分の気持ちを伝えるスキル)やその他の教育的な内容についてはある程度理解できているので飛ばしました。一般の人がするなら、グラウンディング(呼吸に集中したりして今現在に意識を戻す手法)もやってから取り組んだ方が良いと思います。治療で思い出してしまっても、今現在に意識を戻すことで、圧倒的に強烈な過去に負けないようにサポートしてくれるスキルになります。

認知行動療法的に感情の癖をとらえ、次に対人関係の癖をとらえ、トラウマ体験に縛られない対人関係の結び方について考える、という戦法をとることにしました。使用しているフォーマットについて、本当は本の内容を掲載したいのですが、時々、参考資料として外部に載せてはいけない資料もあるみたいだから、今回は概要だけのお話になります。参考程度にどのようにすると良さそうかくらいは書きますが、最後にSTAIR/NSTの本のリンクを貼るので、気になる方は本を読んでみてください。

感情の癖の捉え方として、認知行動療法をベースにした、起こった出来事、自分の感情、認識、行動といったことがシートに入っているものを使うといいと思います。対人関係についても、同じように起こった出来事、認識、行動、結果を書いてまずは対人関係で捉われている思い込みを知り、それに慣れたら次に、過去ではない今でどのように出来事をとらえて行動すればよいのか、ということを書いてみたり実践してみたりします。今は、この対人関係の部分をしていますが、単純に感情の癖をとらえるより難しいです。

 

NST

 

この部分はまだやれていないのでこういう風にしようと思う、という内容になります。

 

人生に影響を及ぼしているようなトラウマ記憶を4~10個選び、苦痛レベルを0~100で評価します(SUDs:主観的苦痛単位を用います)。

これらを匂いや触れているもの、感覚、感情まで詳しく、今起きていることを解説するように話していきます。

いきなりトラウマから話すのではなく、過去のただの思い出を話して感覚を掴むところからしようと思います(実際の治療でもそのようにします)。

1週間に一つの出来事を語っていき、それを録音しながら2,3回繰り返して読む、ところどころ、SUDsもつける、といったこともして、苦痛が軽減されるのを確認します。録音したものを毎日聞きます。その日聞き終わった後のSUDsも記録します。SUDsが30以下に下がることが目標とします。

STAIRの時の対人関係に対するシートを時々しながら(テキストではNST中は週2回くらい)、トラウマ体験の語り作業と一緒に振り返ろうかなと思います。

 

まとめ

 

複雑性PTSDのSTAIR/NSTについて、治療の内容と、私がセルフで実践している方法を書きました。

治療法がある、というのを知っているだけでも希望が持てますし、こんな感じかあ、ということを知ってもらえると嬉しいです。

私は知識もある程度あるし、セルフでしていますが、一般の方は、強烈なトラウマ記憶に引きずられてしまったりするので、サポート体制がある場合にのみされた方が良いと思います。また、本来であれば対人スキルを身に着けるときにロールプレイを行うなど、一人ではできない要素も生じていますし、第三者に聞いてもらう、という作業は一人であれば置き換えできないので、STAIR/NSTを受けたいのであれば、対応できる病院に通院されるのが一番だと思います。

最後にSTAIR/NSTについての本のリンクを貼っておきます。もう少し詳しく知りたい方は是非読まれてください。少し難しい部分もあるかもしれませんが、一般の方も読めるように専門的な用語もわかりやすく書かれています。